そのひと言は、本当は
「行って、そして帰っていらっしゃい」
という祈りの言葉。
帰る場所がここにあるよ。
待っている人がいるよ。
そんな静かな約束。
けれど――
その約束が、叶わない日もあるなんて。
そんなことを、考えたことがありますか。
きっと誰もが
いつも通りに、大切な人を見送っている。
あの日の私も、そうでした。
「行ってきます」と出ていく背中に、
疑いなんて、ひとつもなかった。
だってそれは、
帰ってくる前提の言葉だから。
夕方になれば、ドアが開く。
そしていつものように
「ただいまのすけ〜」
なんてふざけながら、
笑顔で帰ってくる人。
それが、私の日常でした。
でも本当は――
毎日、無事に帰ってきてくれること。
それ自体が奇跡みたいな出来事だったのだと、
今ならわかります。
あの日、見送った主人の後ろ姿が
私が見た最後の姿になりました。
あの「いってらっしゃい」は
約束ではなく、
別れの言葉になってしまった。
それでも不思議なことに、
あの一瞬は今も
やわらかな光の中にあります。
私は確かに
愛する人を見送った。
そしてその日から
私の人生の歯車は
静かに回り始めたのです。
終わりのようで、
始まりでもあった朝。
その日のことを、
これから書こうと思います。
次の記事では
**「当たり前のように見送った朝」**のことを。

