2019年の冬のこと。
息子が寝静まったあと、私たち夫婦は、録り溜めしていたTV番組を二人で見るのが日課になっていました。
その日、主人が録ってくれていたのは、沖縄・那覇の街を歩く街歩き番組。
画面に映る那覇の街並みを見て、私の心はふと躍りました。
20代の初めに訪れた沖縄の魅力にすっかり取り憑かれてしまった私は、よく「沖縄に行きたい」「沖縄に移住したい」と口にしていたのです。
その日も、いつものように呟きました。
「沖縄で暮らしたいな…」
すると主人が、ニコニコしながら言いました。
「いいね〜。じゃあ、引っ越しちゃうか!」
えっ、いいの?
思わず目を丸くする私。
軽いノリで大事なことを決めてしまっていいのか、言い出したのは私の方なのに、少し不安になりました。
でも、主人の目は謎めいたオーラをまといつつも、どこか確信に満ちていました。
よく聴けば、ちゃんと考えがあったのです。
・前々から東京を出たいと思っていたこと
・移住先での生活に馴染めるか分からないから、息子が小さいうちにお試しで移住してみること
・もし難しければ、息子が小学校入学する前に東京に戻る選択肢もあること
主人の考えはとても理にかなっていて、
少し肩の荷が下りると同時に、胸の奥が静かに、でも確かにわくわくしてくるのを感じました。
こうして、私たちは移住に向けて少しずつ話を重ね、約一年後――
東京の喧騒を離れ、南の島での暮らしを始めました。
移住直後は、ちょうどコロナ禍の真っただ中。
生活は決して楽ではなかったけれど、
時間の流れは不思議なほど、ゆっくりでした。
どこまでも青い海。
抜けるような空。
肌を撫でる潮風。
観光ではなく「暮らす沖縄」で過ごした日々は、
気づけば、私たち家族にとって
一生分の沖縄旅行のような、贅沢な時間になっていた気がします。
あの穏やかな日々が、
これから起こる出来事の前の、
最後の静かな時間だったなんて――
その時の私は、まだ知る由もありませんでした。

